6月17日(金) プレ・イベント1のご報告 (Report)


SIIEJ2022 プレ・イベント1
ラウンドテーブル「国際教育競争資金がもたらした歴史的な意義と今後の課題」報告書

開催日時:2022年6月17日(金) 12:00-14:45
参加者人数:116名

プレゼンター

「競争的資金の歴史的経緯」 (資料 PDF) 梅木 慶治(文部科学省高等教育局国際企画室前係長)

「国立大学の立場から見た競争的資金」 (資料 PDF) 末松 和子(東北大学 総長特別補佐(国際交流担当)高度教養教育・学生支援機構 教授)

「早稲田大学及び競争的資金全体の視点」 (資料 PDF) 黒田 一雄(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授・研究科長)

「小規模大学にとっての競争的資金とは」 (資料 PDF) 大森 昭生(共愛学園前橋国際大学 学長)

「競争的資金に応募しない/諦めた大学調査」 (資料 PDF) 星野 晶成(名古屋大学グローバル・エンゲージメントセンター准教授)

ディスカッション

1. 「『補助金採択校が一部に偏っているのでは?』という認識が存在する。なぜ偏ってしまうのか?」

(末松)
申請に際してはゼロからではなく蓄積されたものをベースにしている側面が大きいと思う。最近は研究を中心とした人材育成が強く押し出されているため、そもそも研究大学が申請しやすいような状況が深化している印象を受けつつある。また、申請にあたる体力の違いという問題もあると感じている。例えば、大森先生のお話にあった32名の教員で申請書を作成するのと、本学のように数千人の教員の中からチームを作って取り組んでいくのとでは規模が異なる。この体力の違いが、一律に応募するプログラムの結果に現れてくるのではないかと考えている。

(黒田)
十数年審査に携わる身として、申請書を書くテクニックが一部の大学に蓄積されており、フェアな判断が難しいと感じている。今まで採択経験のない大学や小規模大学は優れたプログラムを提案されているのかもしれないが、プレゼンテーション能力の弱さから、採択校が一部の大学に偏ってきている可能性は十分あるのではないか。しかし、大学への調査で「文科省や審査員の意図が入った出来レースでないか」との印象が挙げられた件について、そのようなことは断じてない。外交的な意味などをプログラム委員会で考え、むしろ点数順を違えてでも採択した方が良いと思うことがあるほど、完全に点数で審査される。日本学術振興会でも、選考の仕方に関するテクニックはここ10年間で非常に高まっており、改革がされ続けているため、恣意が入る余地はない。しかし、だからこそプロポーザルの出来で判断され、通るものを書けるかというところにキャパシティの差が出ている現状なのかもしれないと感じている。

(大森)
国際系のものではないが、文科省の補助事業の審査に携わっている。私も同じく審査に恣意が入る余地はないと考えている。ペーパーレフェリーを置き、さらにそれをまとめて審査する担当も設けて二重の審査を行う例もあり、様々な工夫が見られる。申請書の作成に関して、もちろんリソースの問題もあるが、競争的資金は国の資金であるため、教育改革の方向性などベーシックな柱を理解しているかどうかが書きぶりに現れる。この点の情報収集はきちんとできたら良いと感じている。また、学外や産業界の人にも申請書をレビューしてもらうと自大学を客観視できる。

(星野)
あらゆる大学が横並びで申請するプログラムにおいて、採択され続けている大学とこれから臨む大学には明らかな情報格差が存在すると思うが、文科省でこの問題に対処・考慮する議論は起きているのか。

(梅木)
我々も全く同じ問題意識を持っている。審査の仕方をいろいろと検討した結果、現段階では書面の点数に一定の係数を付すということで対応している。ご質問にもある通り、未経験の大学のみの枠を設ける方法もあるのではと文部科学省内で検討したが、この事業については専門の先生方に審査していただいているため、プログラム委員会での様々な意見も踏まえ、採択枠を設けるのではなく書面審査の評価に係数をかけるやり方を試行的にとっているという状況。今後見直しを図っていく部分もあると思う。偏りの部分で大学の世界展開力強化事業(以下、展開力事業)に関して言うと、教育プログラムと言いつつやはり研究力があるところ、相手国との交流事業ではあるが、そのきっかけとなるのが教員レベル・研究室レベルでの交流、それが共同研究をもとにしている側面もあるため、どうしても研究力の高い大学が採択されやすいという傾向が出てきているのかなと考えている。

2. 「今後、競争的資金はどうあるべきか。また対象とするテーマは?」

(黒田)
採択されている側から見ても、中小規模の資金である方が、その範囲で提案できるものを考えて持続可能な形で活用しやすいと感じている。大きな資金が来てしまうと無駄遣いしてしまうこともあり、そうして作ったプログラムはどうしても定着しない。そのため、総合大学の部局や小規模大学でも応募できるような中小規模の案件を出していくことの方が意義ある方針なのではと思う。その意味で、21世紀COEプログラムは、総合大学にとっても、キラリと光るものをもつ小規模大学にとっても本当によかった。文科省は財務省との交渉の中で予算を取り続けるため、新しいものを作っていかなければならないということで、新自由主義的な「選択と集中」の考え方があるものと思う。しかし、「選択と集中」でやり過ぎてしまい、結局無駄になってしまった部分もあるのではないかなと個人的には感じている。

(星野)
現在の補助金の流れとして、大学のガバナンス改革やリーダーシップに寄る内容が多い。その中で、小さな取り組みに対して補助金を出すのは難しいのかなと感じていた。

(大森)
全く同感である。文科省だけでなく各省庁で大きな取り組みが打ち出されているが、私の観点では例えば10億円を10件より5000万円を200件出した方が、それを享受できる学生の総数は多くなり、真に日本の高等教育の底上げにつながっていくはずだと考えている。大学は教育機関として人を育てることが第一であるため、そのことを前面に押し出したプログラムが拡充していけばより多くの大学がチャレンジしたくなると思うし、学生にとってもプラスになると感じている。

(末松)
二人のご意見に賛成である。ただ、もちろん大学は人を育てることが第一だと思うが、研究力を高めなければ世界に通用しなくなってくるため、大学によってはやはり研究に力を入れざるを得ないところはあると思う。その部分は別の予算として、小規模の資金を教育プログラムの改革等に出し、学部・研究科レベルでも応募できるようにしていけたら、大きいものと小さいものを効果的に使い分けることが可能ではないかと考えている。

(星野)
これまで文科省からは様々な補助金事業が展開されており、現在スーパーグローバル大学創生支援事業(以下、SGU)を継承する形でのJapan Virtual Campus (JV-Campus)が立ち上がり、展開力事業も継続して進められているが、今後の新しい動きはあるか。

(梅木)
SGUは2023年度で終了するが、競争的資金の必要性は引き続きあると考えており、それに向けての検討は国際企画室を中心に進められている。JV-CampusについてはSGU終了後の自走化を目的としているため、SGUの最終的な成果を見ながらポストSGUを含めて考えていかなければならないと思っている。また、黒田先生がおっしゃったように、財務省に対しては予算の取れ高で資金を要求しがちな部分が大きいかもしれない。昔と比べると、国際補助金に限らずプログラムの自走化を求められるため、補助金額は逓減し、さらにパイが小さい中での翌年度の要求となっていく。運営費交付金も私学助成もそうだと思う。この流れをどこかで止めない限り、広く薄く配るとしても財源の確保が難しいのかなと感じている。また、人材育成に関しては、展開力事業のインド太平洋地域のものからは、学生がこのプログラムを通じてどう成長したのかという観点での審査を明確に加えるようにしている。そのため、展開力事業という名前ではあるが、もちろん人材育成も重視している。今後も展開力事業として要求していくのか、国際化補助金も含めてどういう形で推進していくのか、しっかりと考えていかなければならない。

(黒田)
末松先生がおっしゃった通り、研究大学にとって研究は非常に重要。国際化を含めて新しい教育プログラムを構想していくうえでも、研究力をどう高めていくかということが一方の大きなアジェンダになる。研究科レベルでもそうだと思う。教育の国際化補助金はどうしても教育に使えという指示があり、大学院生や研究者にインセンティブを持ってもらうのが難しかったことを踏まえると、研究と教育を合わせた形での競争的資金のあり方が求められるのではないかと考えている。

3.「プレゼンターが考える競争的資金の歴史的な意義とは?」

(末松)
東北大学の場合でいうと、本学の国際化を推進したのは競争的資金であると断言できる。競争的資金がなければ様々なプログラムや新しい取り組みを行うことはできなかった。だが、持続可能性を考えながら次のステップに進まなければいけないということに早い段階で気づくことができなかったため、そういった部分は現在でも苦労している。意義はあるが、競争的資金が将来どういった形で生かされるかはまだ分からない状況だと考えている。

(黒田)
どのように国家が大学を支援するかということに大きく関わってくるテーマになると考えている。90年代までは私立大学は国立大学に比べて競争的な資金を得ることすらできなかった。それが段々とオープンになっていき、様々な機会を持てるように変化している。つまり、競争的な形で資金が提供されることは特に私立大学にとっては大きなチャンスであったかと思う。国が方向性を指し示す場合もあるかもしれないが、一方で資金申請の有無は大学側も自由に選択できるため、大学側としても自分たちの改革に繋がっていけるような形で競争資金を申請していくことができるという部分では、大学の独立性や政策的な関与のバランスを保つという意味で、競争的な資金は意味があったと考えている。

(大森)
「競争的」という枕詞自体が、大学に対する社会の在り方を示していると感じている。大学の在り方が変化してきたところに、競争的資金が大きなドライブとなったのも事実だと思う。だが、この点が良いか悪いかといった評価に関してはもう少し歳月が必要だとも思っている。社会の在り方、社会のニーズ、社会が何を求めているかによって大学の学びを変えていくことは学生の幸せのためにも必要である。しかし、大学の在り方が「競争的」ということによって社会との関係の中で規制されていくという歴史を辿ってきていると感じる。競争的であるがために予算としても単発で向上的ではないことから、文科省から予算を減らされているという気もする。

(梅木)
競争的な資金の意義として、採択された大学に限られたことにはなるが、端的にはグランド化が進んだといえる。その理由として採択された大学の教員に話を聞くと、アジアや東南アジアと協定を結ぶにあたってはやはりSGUや展開力の採択校であることが最低条件になることが分かるからである。また、学問の自由は大切にしなければいけないが、政府として政策的に大学としてどういった方向性を歩んでほしいのかを、国内の事情だけでなく国際化補助金に関しては国際的な動向も検討しながら、大学が自発的に行動する形で仕組みづくりを行わなければいけないと考えている。

●質疑応答
Q1. 審査する先生方の所属組織に偏りがあるのではないか。

(黒田)
偏りがないとは言えないかもしれないが、経済界の人員も入っており、大学についても地域等のバランスを考慮して審査委員を決めているように見受けられる。

(梅木)
文部科学省が一体となりながら日本学術振興会が審査している。過去の審査委員は公式ウェブサイトでも公開しているため、参照していただければと思う。民間の方々も入っているし、国立大学だけではなく私立大学の先生にもお願いしている。利益相反を重視しており、必ず自身に関係のない大学を審査してもらう。そのため、現役を離れた方にも入ってもらいながら、バランスよく審査委員に所属していただいている。

Q2. これまでの競争的補助金の中で国際教育に特化してるものと研究に焦点を当てている補助金とでは性質が異なると思うが、そういったものに対して今後政府の支援はどのように展開してくべきか、あるいはどのような展開が望ましいか。

(黒田)
個人的な意見としては、融合的に考えていくことが重要だと思っている。現在の科学技術力・研究能力の国際的な低下はこれからの日本の大きな課題になってくると考えると、国際化は研究推進の一つの方法であるから、研究と教育を分けすぎずに補助金を考えていくことが重要になっていくと考えている。

Q3. 現在、日本に留学している外国人留学生は、他の国の大学に留学できない制度になっていると聞いているが、その点に関してもう少し詳しく教えてほしい。

(黒田)
早稲田では留学をしてきている人が再留学する(例:中国人留学生が米国の協定校に再留学する)ことはかなり多く行われている。日本人の留学をKPIに入れているため、競争的資金の場合には外国人の再留学には含まれていないというのが現状。この点においては、日本人の留学生にも同じように国際教育を提供したいという想いがあるため、今後の進展を望んでいる。

報告者
赤尾 菜々実 (東洋大学国際学部国際地域学科)
湊 洵菜 (東北大学大学院教育学研究科)