SIIEJ2022 プレ・イベント1
ラウンドテーブル「国際教育競争資金がもたらした歴史的な意義と今後の課題」報告書
開催日時:2022年7月16日 (土)
参加者人数:217名
SIIEJ2022 プレ・イベント1
第1部 「海外事例研究(カナダとオーストラリア)」
発表者(発表順)
Nathanaël POLI, Canadian Information Centre for International Credentials (CICIC) at the Council of Ministers of Education, Canada (CMEC)
Joanna WILSON, Assistant Director, Qualifications Recognition Policy, International Partnerships Branch, Australian Government Department of Education
- (資料 PDF)
受講者感想
成毛楓(東洋大学国際学部国際地域学科)
第1部では、カナダとオーストラリアから政府関係者をお招きし、移民申請者、難民、留学生に対して学歴・資格を評価し、キャリア形成を支援していくプロセスを発表していただいた。
まずナサニエル・ポリ氏より、カナダにおけるリスボン協定の批准への過程、規定の実施、認証機関にとっての意味に関してご説明があった。リスボン協定への批准には、カナダの全教育当局間での合意が必要であったために批准に時間を要したことや、リスボン協定がうまく実施されているかモニタリングするために独立した機関への報告書の依頼を通し、すべての州と準州にまたがり協議を主導しているとのお話があった。
続いて認証に関与している団体をご紹介して頂いた。カナダでは連邦政府に加えて、主務官庁である州政府や準州政府、国家情報センター、管轄の認証機関に大きく分けられる。州政府や準州政府は、教育、医療、工学、法律などの専門職を規制する法令を採択する責任を負い、国内情報センター(National Information Center)や管轄の認証機関も異なる役割を果たしている。カナダでは評価(assessment)と認証(recognition)を区別していることが非常に重要であると述べられていた。
最後に、さまざまな認証機関についてご説明があった。カナダは連邦国家であるため、分野によって州・準州もしくは連邦政府など異なる責任下にあり、この構図を理解することが非常に重要であると述べられた。カナダ教育担当大臣協議会(Council of Ministers of Education, Canada: CMEC)は教育省により設置され、政策課題の議論の場や、モニタリング活動、世界規約などの役割を担っている。一方で、カナダ資格評価機関連合(ACESC)は、民間企業と公的な組織により作られ、専門的な意見を提供し、カナダの認証機関や仕事をサポートする役割を担っているとのご紹介があった。
続いてジョアンナ・ウィルソン氏より、オーストラリアにおける資格認証の定義や重要とされる理由、そしてその役割についてご説明いただいた。資格認証の定義は、個人の学歴や技能評価が特定の目的のためにベンチマークを満たしているか評価することであり、資格認証が国際教育セクターや技能移民を含む多くの戦略的利益をもたらすとされる。連邦教育省における認証システムの役割はオーストラリア人が海外に出る場合と海外の有資格者がオーストラリアに来る際の双方向の移動を促進することであり、オーストラリアで取得できる資格と同様に外国資格が完全かつ公正に認証されるよう、ステークホルダーをサポートするための様々なプロダクトやサービスを提供していると述べられた。
オーストラリアはカナダと同様に州や準州の政府があり、教育機関、内務省、評価機関など資格を評価する様々な意思決定者が存在し、教育省はこれらの組織と非常に密接に協力して、アドバイスを提供している。具体的なサービスとして、Country Education Profiles (CEPs)と呼ばれるオンライン認証ツールを提供し、海外の教育や訓練システム、質保証の仕組み、資格、等級制度、賞罰文書について、意思決定者がより深く理解するために使用されるという。続いてオーストラリアでの資格認証の具体的なプロセスについて例を挙げて説明をしていただいた。またレベル別、教育機関、専門機関向けなど、ステークホルダーからのリクエストに応じ、資格認証評価への理解を深めるワークショップの開催や、単位や編入など複雑なケースに対するアドバイザリーサービスなどを提供しているとのご紹介があった。
SIIEJ2022 プレ・イベント2
第2部 「海外事例から日本は何を学ぶべきか」
発表者(発表順)
生駒京子 (株式会社プロアシスト 代表取締役社長) - (資料 PDF)
杉田 昌平 (弁護士, 弁護士法人Global HR Strategy) - (資料 PDF)
柴崎 洋平(フォースバレー・コンシェルジュ株式会社代表取締役) - (資料 PDF)
受講者感想
赤尾菜々実(東洋大学国際学部国際地域学科)
第2部では、「海外事例から日本は何を学ぶべきか」というテーマのもと、3人の方々に発表していただいた。
まず生駒氏からは、外国人が日本で働くことが当たり前になることを目指し、自身が設立し社長を務められている株式会社プロアシストでの外国人採用での経験をもとに、人材の多様性の重要性をお話していただいた。1994年に会社を設立してから現在まで約30年間、様々な外国人を採用してきたが、就労ビザを得ることは簡単なことではなかったという。1年間弱大使館にビザの取得を求めてもたった1年間のビザしかもらえないことも多かったという話からは、「入管との闘い」を物語っているように感じられた。辛抱強く外国人採用への取り組みを続けたことで、この30年間で、低賃金・単純労働だけを強いられてきた外国人の働き方は、付加価値のある労働に変化してきたという。しかし、現在の日本にはまだ多様性のある企業が少ないことが課題である。多様な人材を採用し、ダイバーシティインクルージョンに取り組んでいくことが、日本企業の発展には必要であるとのことだ。
続いて杉田氏から学歴とスキルが人の国際移動にどのような影響を及ぼすのかをお話いただいた。お話の中で学歴やスキルは国際移動を促進するだけでなく、国際移動の過程で移住労働者が生活環境などから弱い立場におかれても緩和することができるといったメリットがあるということが分かった。学歴やスキルが認められることの重要性が理解できる一方、今の日本は学歴認証が行われていながらも、海外との雇用形態とのギャップから課題が残っている。日本人の派遣労働者は約2%に対し日本の派遣形態で働く外国人労働者は約20%であり、理由としては出身国で身に付けた技術を日本で認める制度が不十分であることがあげられる。学歴やスキルといった人的資本が認められなければ、本来持っている技術を発揮できず、これは社会的にも経済合理性を失うことになる。海外で身に付けた学歴や技術を日本で発揮し、日本人・外国人といった立場に関係なく、どんな人も企業や組織の中心で活躍できるような企業を作っていくことが、人材不足が問題視される日本の企業に必要なことである。同時に、どういった人を受け入れるか、人的資本を誰が審査するのかといった体系性を日本は今後作り上げていくべきとのことだ。
最後に柴崎氏から日本で働く外国人をこれからどのように増やしていけるのかというお話をしていただいた。日本の留学や就労に関して他国との比較から理解することができた。留学制度については、日本で留学する場合、授業料は世界で最も安い基準であるにも関わらず外国人留学生に対して3割授業料を安くしている。世界は3~7倍が平均とされる中、日本の経済インパクトが他国に比べて小さいことが分かる。それでも技能実習生や日本語学校生、専門学生が増えてきている。就労に関しては、日本は外国人労働者を近年最も増やしている国であるという。10年ほど前では中国人就労者が多かったが、今ではベトナム、ネパールなどの発展途上国からの就労者が多いとのことだ。日本の留学や就労から、日本の国際化が進んできていることが分かるが、今後さらに発展していくためには日本に留学だけするのではなく、就職もするといったスタディアンドワーキングの形を実現していくことが必要だとのことである。
3人の発表者の方々にお話しいただいたあとのディスカッションでは、日本で外国人が就労する上で、人的資本が認められるための制度を整えるといったことだけではなく、根本的に重要なことは日本語能力であると強調されていたことが印象的だった。また、日本に学びに来ている専門学生や日本語学校生の中には出稼ぎを目的とし、一日の大半をアルバイトに費やす外国人もいる事実がある中、それは日本経済に影響を及ぼすのかという質問もあった。この質問に対して、出稼ぎしたい人が出稼ぎ目的で日本に来られる選択肢を肯定できるよう、働きに来てくれる人の視点で制度を整えることが重要なのではないかという意見があった。日本に来る外国人がそれぞれ勉強だけではなく、母国の生活環境など様々な事情を抱えていること、そういった現状があることを理解し、日本で働きやすいと思えるよう柔軟に就労制度を構成していくことの大切さを感じた。