「留学/VE/COILのアウトカムの客観的測定」報告書
発表者
西谷 元(広島大学教授)
村澤 昌崇(広島大学高等教育研究開発センター)
8月26日に行われたワークショップAでは、「留学/VE/COILのアウトカムの客観的測定」をテーマに、広島大学の西谷元さん、村澤昌崇さんによる講演が行われました。
講義前半では西谷さんにより、留学の成果を客観的に診断するための心理テスト、BEVI (The Beliefs, Events, and Value Inventory)の概要や測定結果例についての説明がありました。事前に参加者に回答していただいていた事前アンケートでは、学生が参加する留学プログラムによりその目的が異なるため比較が困難であったり、客観的テストを使用している事例が少なく、参加した学生の語学力がどの程度伸びたか、あるいは学生の満足度でプログラムの有効性を図らざるを得なかったりするといった意見が寄せられていました。BEVIは信念・価値についての個人によるステートメントのデータの収集と分析を基にテストが作成されており、留学プログラムの効果を図る際によく使用される主観的アンケートとは異なり、より客観的なデータの収集が可能となっています。また、世界140カ国・2万人のデータが比較対象用のデータとしてBEVIでは収集されており、標準化されたデータから国際比較も可能と述べられました。西谷さんの講演後半では、実際に参加者が事前に受験したBEVIの結果を使用しながら、どのようなカテゴリーに分けてBEVIの結果を比較することができるのかについても説明されました。BEVIは全てオンラインで行われるため世界中どこにいても受験可能なだけでなく、今後は現在の英語・日本語版に加え、中国語・スペイン語版も開発されるとのことで、より使用範囲が広がっていくのではないかと感じました。
続いて講義後半では村澤さんにより、国際化、効果検証に関する講演が行われました。従来の国際化・留学に関わるエビデンスでは、収集したデータが不十分であったり、留学をした学生のみを追っていたりすることが問題であると述べられました。近年EBPM(Evidence-Based Policy Making: 根拠に基づいた政策形成)が普及しており、政策を遂行する際に狭義のエビデンスが求められるようになっています。EBPMでは因果関係を基にその質の高低が格付けされるという特徴から、反実仮想から結果を出す因果推論が核をなす分析手法になっています。しかし、因果を推定するために個人ではなく集団からデータを取る必要があり(ランダム化比較実験: RCT)、BEVIでもこの点が配慮されているそうです。講演最後には、学内に常時蓄積されるデータの活用の必要性や、それをBEVIと上手く併用することによりデータをさらに分析していくことが可能になると提言されました。
報告者
高山美櫻 (東洋大学国際学部)