8月26日(木) 基調講演(第一部)のご報告 (Report)

8月26日(木)基調講演(第一部)「国際教育の本質的な価値・意義を問う」報告書

発表者(発表順)
渡邉誠(千葉大学副学長 教育・国際担当)
渡部カンコロンゴ清花(NPO法人WELgee 代表理事)
竹内上人(マッケン・キャリアコンサルタンツ株式会社 代表取締役)

 研修初日の午後、「国際教育の本質的な価値・意義を問う」をテーマに基調講演第一部が行われ、千葉大学副学長の渡邉誠さん、NPO法人WELgee代表理事の渡部カンコロンゴ清花さん、マッケン・キャリアコンサルタンツ株式会社代表取締役の竹内上人さんが登壇されました。
 まず、渡邉さんに千葉大学の国際化についてお話をいただきました。千葉大学では昨年より、学部学生・大学院生ともに在学中一度は留学する、エンジンというプログラムが開始されました。コロナ禍で学生の現地派遣が困難な状況下でも、英国・ヨーク大学等とオンラインイベントを開催し、今夏は734名の学生が参加しています。今後はオンラインを上手く利用し、多種多様で柔軟なプログラムを行うことを目指しているそうです。続いて、長年人事の実務に携わり、日本の雇用現場を見つめてきた竹内さんからは、現代社会で求められる人材の育成に関し、高等教育に対する提言がなされました。知識や技能の習得のみならず、自己のパーソナリティを理解し、他者との協働においてそれを効果的にマネジメントできる人間性の涵養が鍵になるとのことです。また、日本人学生・留学生ともに安定した社会参画を果たすための国際教育について、日本的雇用・評価システムに対する理解促進、そして企業との橋渡しとして恒常的に機能しうる大学人事制度の再整備など課題を指摘されました。渡部さんは、大学生の頃バングラデシュの紛争地を訪れて感じた「国家が守らない・守れない人たちはどう生きていくのか」という疑問を自身の原点と語り、個性を秘めた「人材」としての難民が日本社会と響きあう可能性を主張しました。国際教育の観点からは、鮮烈なVUCAを経験した難民は、日本人学生にとって自己を問い直し、目を開かせてくれる存在であると述べ、双方の学びあいの意義を訴えました。
 Q&Aセッションでは、参加者から「コロナ禍になってオンラインで留学に行けるようになったので現地留学の意味が薄れているのではないか」という意見が出ました。これに対して渡邉さんは、見聞を得るための留学はオンラインでも十分かもしれないが、実際に現地に行かないとわからないことは沢山あり、また学生が専門性を高めるために留学をするなら現地に行くことが重要であると述べられました。また、多様な背景をもつ留学生や難民が日本で就労するための支援についての議論では、竹内さん、渡部さんともに入社後も続く長期的な伴走体制の重要性を強調しました。特に難民の就労支援について、竹内さんからは、彼らが教育を通して難民から「脱皮」し、日本社会の担い手たるレディネスを身につけたと証明しうる仕組みがあればとの提案もなされています。同時に、彼ら自身が人材価値を高めて企業を選別していく眼をもつことの重要性を指摘し、言語の壁を人間的資質という形で乗り越えられるようなエンパワメントこそ国際教育に要請されるものと語られました。一方渡部さんは、留学を含め国際教育から学びたいと願う学生の気持ちが、単位認定など大学のシステムに阻まれることがあるのは残念だと指摘し、彼らの望みと学びへの挑戦を保障するフレキシブルな対応が大学に求められると言及しました。
 日本らしい教育をより海外に発信していくために、今後は学部間、さらには大学の垣根を超えることが重要です。その中で、大学間で競争をしていくのではなく、各々の大学の強みや特性を生かし共創や協創に繋げていく必要があるのではないかと感じました。

報告者
高山美櫻 (東洋大学国際学部)
湊洵菜(東北大学文学部)